お名前:由利 昂大(ゆり こうだい)
卒業年度:平成27年度 (学部卒)、平成29年度 (修士修了)
出身分野:応用昆虫学分野
現在の所属:秋田県北秋田地域振興局 農林部農業振興普及課 産地・普及班
秋田県職員のうち農学(一般)職で採用され、普及指導員として農作物の病害虫防除や栽培の技術指導をしています。都道府県職員の農業系分野で採用され、普及指導センターや地方機関の農業振興系の部署(秋田県では農業振興普及課)に配属されると普及指導業務に就くことができます。採用後に数年の実務経験を経て資格試験(国家試験)に合格すると普及指導員になれます。秋田県の普及指導員は稲・大豆、野菜、花卉、果樹、畜産といった担当に振り分けられますが、特に私は「やまのいも」や「にんにく」などの野菜を担当しています。田畑を巡回して圃場や作物の状況を確認して農家に直接会って指導するほか、生育調査や栽培講習会などの活動もします。また、農家や農協、県庁、農業試験場、市町村役場などの関係者が連携できるように、「つなぎ役」となって農業の改良・発展を支援するのが主な役割です。
学生時代の専門は、昆虫生理学だったので野菜の指導とは文字通り畑違いです。昆虫の専門知識は害虫診断などの業務でアドバンテージになっています。なによりも研究生活で身に着けた課題解決能力は、様々な環境が複雑に影響し合う農業現場においてニーズを見出し、解決策を普及に移すということに大いに活きています。大学で得た知識は現場で直ちに使えるとは限りませんが、それをベースとして農家の経験や試験研究の成果などを、その地域に適した技術として落とし込んでいくのが普及指導員の仕事です。得意分野を活かしつつも専門にとらわれることなく、地域に密着した「農業の総合的な専門家」として農家と直接接点を持って活躍できるのがこの仕事の魅力です。
修士課程までの研究室生活が一番の思い出です。カイコを材料として、昆虫の精子形成という100年以上未解明のテーマに取り組んでいました。研究は、餌の桑を育てることからデータ解析までを自ら行うため知力・体力ともに必要とされるハードな生活でした。その反面、今見ている現象は自分が世界で初めて経験し自分しか知らないということ、知識・経験が増えるにつれて見える世界が加速度的に広がっていくということに高揚感を感じる日々でした。研究室の先生や先輩、他の研究室の同級生と研究についてディスカッションできることも楽しみでした。写真やスケッチが趣味だったので、発表用の図表収集は特技を活かして楽しくやっていました。また、3年半という短い期間に他大学との共同研究に参画したことや論文に名前が載ったこと、学会などで第一線の研究者と接したことは、自らの世界観を大きく広げる、今でも忘れられない濃密な経験です。
植物生命科学科では、植物に限らず、私のように昆虫など農学に関わる様々なことを学ぶことができます。自由な視点で枠にとらわれない活動をできるのは学生の特権です。物事を「世の中の役に立つか否か」といった単純な物差しで測らず、自分の知的好奇心を信じてやってみたいと思ったらチャレンジしてください。広い視点を持ち気骨のある皆さんが普及指導の現場に来てくれることを心待ちにしています。